-食物アレルギーを食べて治す 「経口免疫療法」-


食物アレルギーを食べて治す 「経口免疫療法」

食物アレルギー

卵、牛乳、小麦にピーナツなど特定の食品を口にすると、嘔吐やじんましんなどのアレルギー症状が出る食物アレルギーに悩む子どもは多いいです。多くは5、6歳までに自然に食べられるようになりますが、大人になっても続く人もいます。症状が重いと、呼吸困難など全身症状が激しく出る「アナフィラキシー」を起こすこともあり、命の危険もあります。

そんな食物アレルギーに対し、これまでは、「徹底的に原因食物を避ける」のが常識でした。その発想を逆転したのが、欧米を中心に数年前から広がる「経口免疫療法」です。いわばアレルギーの原因物質であるアレルゲンを「食べてまたは、飲んで治す」療法です。


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経口免疫療法の効果

小学5年生の男の子(11)は2010年3月1日、卵アレルギーで、神奈川県立こども医療センター・アレルギー科に入院しました。

まずは、生卵の白身から作った粉を少しずつ飲む検査で、アレルギー症状が出る最低量(閾値:いきち)は30ミリ・グラムと確定されました。比較的軽症のため、治療は通常より多めの5ミリ・グラムからスタートし、1日5回、前回量を毎回20%ずつ増やしながらジュースに混ぜて飲みました。8グラムに達したらいり卵に変え、卵1個分(60グラム)が食べられるようになるまで続けます。

男の子は21日後に退院しました。退院後も、週2回は目標量を食べ、効果を維持します。

牛乳なら200ミリ・リットル、小麦粉は60グラム、ピーナツなら10粒が目標量です。同科では、これまで、6歳から12歳の卵アレルギー患者12人を治療し、全員が平均2週間で目標量を達成しました。ほかにもピーナツ8人、牛乳4人、小麦2人を治療し、一部目標量を減らしたものの、全員食べられるようになりました。

経口免疫療法の仕組み

この療法は、免疫学では古くから知られる「経口免疫寛容」という体の仕組みを利用しています。これは、「口から入って、腸管から吸収された物質に対しては、免疫反応が起こりにくくなる」というものです。

しかし、原因物質を食べ続けることで、なぜ耐性ができるかは解明されていません。食べられるようになっても、アレルギー検査の値は治療前と変化がなく、吸い込んだり、目の粘膜に入ったりすれば症状は出るといいます。食べ続けるうちにこの値も下がることが確認されていますが、根本治療につながるかは今後の研究が必要です。

病院によって手法もバラバラで、標準治療はまだないです。重症者を受け入れているところが多く、多くは治療過程でアレルギー症状も出ます。自己流で行うのは危険なため、必ず医師の監視下で行わなければならなりません。大人も対象ですが、食べるうちにアレルギーになるエビ、カニは適しません。

同科部長の栗原和幸さん(57)は「アナフィラキシーを経験した人の食事は一食一食が命がけで、常に緊張感を強いられます。安心して食事ができ、仲間と同じものを食べられるようになることは、生きる喜びにつながるはずです」と語り、治療法の確立を目指します。

経口免疫寛容とは

腸管免疫系は体内で最も大きな免疫系です。すなわち、免疫系全体の60%の細胞や抗体から構成されています。この腸管免疫系には大きな特徴があります。食品のように安全なものと、病原細菌のように病原性のあるものを区別していることです。

私たちは、生命を維持するため必要なものを受け入れて分解し、体内に取り込んでいかなければなりません。しかしこの病原細菌も、食品と同様にたんぱく質、炭水化物、脂質からつくられているのです。しかし腸管免疫系は、これを食品などと区別して排除しています。

たとえば、腸管免疫系により病原性の細菌と認識されると、細菌を攻撃するIgA抗体が産生され、防御反応が起こります。

逆に、食品など安全なものが認識された場合は、経口免疫寛容という免疫抑制作用が働きます。なぜなら経口的に投与される莫大な量の物質が、すべてアレルギー原因物質の抗原として作用すると、アナフィラキシーのような免疫過敏状態を発症してしまいます。そこでそれを防ぐために、この経口免疫寛容が機能するのです。

関係医療機関

神奈川県立こども医療センター・アレルギー科

国立育成医療研究センター・アレルギー科

国立病院機構相模原病院・小児科

あいち小児保健医療総合センター・アレルギー科

岐阜大学病院・小児科

国立病院機構三重病院・小児科

関西医科大学滝井病院・小児科

国立病院機構福岡病院・小児科


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